第6章:夢惑の森に銃声は響かない

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第6章:夢惑の森に銃声は響かない

 それから、アルダの姿をした何者かを振り返る。胸から剣の切っ先が突き出ていて、間違い無く心臓を刺し貫いている事を示していた。  その姿がぐにゃりと歪んで、青白い肌をした、尖った耳を持つ小柄な白髪の少女に変わる。剣が引き抜かれると、少女は青い血を吐き白目をむいてゆっくりと脱力し、地面に倒れ伏して二度と動かなかった。 「これがリリスの正体だったようだぜ。嬢ちゃんはやっぱり迂闊だな?」  偽物のアルダ――魔物リリスの背後に立っていた、シズナの危機を救った声の主を見て、我知らず安堵してしまう。いつもなら嫌悪感を覚える相手でも、味方のいないこの状況では、こんなにも頼もしく思えてしまうのか。 「んだよ、嫌味のひとつでも返してくるかと思ったのに。拍子抜けじゃねえか」  赤髪の騎士イリオスは、剣についた魔物の血を払って鞘に収めると、大股にシズナのもとへ歩み寄ってきた。 「気づいたら全員はぐれちまったからよ、とりあえず襲ってくる蔓を切り払いながら走ってきたぜ」  力任せな所は相変わらず彼らしい。思わずぷっと笑いを洩らしてしまうと、騎士は虚を衝かれたように色の薄い目をみはり、それから口元をにたりとつり上げた。 「へえ、俺にもそういう表情(かお)を見せてくれるようになったか」  彼が手を差し伸べてくるので、素直にその手を借りて、立ち上がる。と。 「ついでに色っぽい顔も見せてくれると、更に満足なんだがなあ?」  急に、獲物を狩る獣のように獰猛な声が聴こえ、シズナの身体はイリオスの腕の中に抱きすくめられていた。
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