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第6章:夢惑の森に銃声は響かない
初対面時のあの無作法を思い出して、必死に身をよじるが、がっちりと囲い込まれて、身動きが取れない。
「せっかくの二人きりなんだ、逃がさねえぜ、シズナ」
嬢ちゃん、ではなくシズナの名が耳元で囁かれたかと思うと、首筋に熱を覚える。
「魔王にもこうされたんだろ?」
蹴りを放とうとした足をすくわれ、シズナはイリオスに抑え込まれる形で地面に倒れ込んだ。頭の中で警鐘が鳴り響く。相手は本気だ。最初の手合わせの時の冗談半分ではない。それが証拠に、手加減無しの力で服に手がかかり、胸元を引き裂かれた。
「俺はな、田舎貴族の三男坊なんだよ」
冷たい外気に当たった肌を舌が這う、おぞましい感覚をやり過ごそうとするシズナの耳に、いつものねっとりした声色ではない、本気のイリオスの固い声が滑り込んでくる。
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