第6章:夢惑の森に銃声は響かない

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第6章:夢惑の森に銃声は響かない

「跡継ぎとしての資格もねえ、政略結婚の道具にもならねえ穀潰しは、せめて王都で身を立てろって、追い出されるように故郷(くに)を出た。だから、俺は何が何でも、どんな手を使っても偉くなって、親父や兄貴達を見返してやらなきゃなんねえ」  唇を塞がれ、湿った舌が入り込んでくる。アルダ以外の口づけなど、受け入れたくはない。せめてもの反撃に思い切り噛みつくと、引っ込むように舌は出て行ったが、ぎらぎらと餓えた瞳が、シズナを冷たく見下ろした。 「勇者の娘なんて女を自分のものにしたら、俺は兄貴達より出世出来る」  舌を噛まれたせいで口から血を流すイリオスの顔を至近距離で見て、シズナはぞっとした。彼にとって自分は、利用すべきただの女。それ以上でもそれ以下でもなかったのだ。共に旅を始めてからも、仲間意識など無く、いつシズナを手籠めに出来るか、その下心だけを抱えて行動を共にしていたのだ。 「だから、大人しく俺のものになれよ!」
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