第6章:夢惑の森に銃声は響かない

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第6章:夢惑の森に銃声は響かない

 イリオスが野獣のごとく吼えた、その直後。 「ぐっ」と低い呻きを洩らし、彼はシズナにもたれかかるように倒れ込んできた。反射的に押しのけると、今度は反撃に遭う事無く、騎士の身体は地に倒れ伏す。その目から光は失われ瞳孔が開き、額に小さな穴が開いて、そこからどくどくと血が流れ出して地面に吸い込まれていった。  何が起きたのか。まだ困惑する頭をおさえながら身を起こすと、見た事も無いくらい冷酷な色を瞳に宿して、硝煙のぼり立つ銃を構えたままのミサクが、そこにいた。それらの情報を照らし合わせて答えに至り、シズナは戦慄する。  殺したのだ。ミサクが。イリオスを。味方を。 「間に合って良かった、シズナ」  かたかた震えるこちらの動揺に気づいているだろうに、全く意に介さない様子でミサクは銃を収め、それから、シズナの格好に気づくと、さっと顔を赤くし、うつむき気味に自分のマントを脱いで肩にかけてくれた。  シズナがマントの前を合わせて、問い詰めるように見つめると、ミサクは事切れたイリオスを一瞥し、冷淡に言い放った。
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