第6章:夢惑の森に銃声は響かない

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第6章:夢惑の森に銃声は響かない

「『勇者シズナに付き従って旅立った騎士イリオスは、魔物との戦いの中、栄誉ある戦死を遂げた。その亡骸は夢惑の森の奥に葬られ、かの地に守られて永遠の安息を得るだろう』 そう陛下に伝えれば、彼の名誉が汚される事も無いし、彼の家族にも莫大な遺族年金が下りる」  それに、と彼は続ける。 「万一死体が見つかって、特務騎士による銃痕をみとめても、アナスタシアの医師はそれを『無かった事』として扱ってくれる」  シズナは目を見開いて息を呑んだ。ミサクは、暗殺まで請け負うという特務騎士の権限を最大限に利用するつもりなのだ。 「……どうして」  どうして彼は、そんな風に自分の手を汚してまで、出会ってまだ一年のシズナに尽くしてくれるのか。勇者の娘に仕えるにしても、彼の行動は恐ろしいまでにシズナの為に忠実で、冷静で、残酷だ。 「貴女の為だ」  疑念に返ってきたミサクの声は、いつにない熱を帯びていた。 「貴女の為になるのなら、僕は世界を敵に回しても貴女を守るし、腕がもげても、両目を失っても、この命を落とす事になっても、貴女に仇なす全ての敵を排除してみせる」
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