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第6章:夢惑の森に銃声は響かない
静かな問いかけに、端的な答えが返る。アティアも深くを訊こうともせず、その話題は打ち切られた。
「それにしても」
ミサクが呆れ果てた様子で、コキトの方を向く。
「離れないでくれと言ったのに、皆を守るべき魔法士が率先して迷子になるとは、どういう了見だ」
「いやあ、申し訳無いねえ。リリスの領域って聞いたら俄然興味が湧いちゃって、ついつい」
向けられた怒りもどこ吹く風、魔法士はからから笑いながらつるりとした禿頭を撫でる。その全く悪びれない様子を見て、シズナの中で、新たな疑念の種が芽を出した。
この人も、なのだろうか。
わざと一行から離れて混乱した状況を作り出し、シズナを始末しようとして、失敗したら「ついつい」と誤魔化して平然と味方に戻る。そんな動きをしているのだろうか。
いや、だとしたらミサクと一緒だ。一年間魔法を教えているうちに、事故に見せかけてシズナを抹殺する機会はいくらでもあっただろうし、この森でも、はぐれたりせずに、強力な魔律晶を使って森ごと焼き払うなり出来たはずだ。
一体誰が敵で、誰を信じて良いのか。森を抜けても、シズナの胸中の夢惑の霧は、一向に晴れる気配を見せなかった。
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