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第7章:きっと誰もが嘘を吐く
「エルヴェ」
想定の範囲内だったのか、ミサクが声をかけた。
「僕だ、ミサクだ」
やや間があった。やがて、蝶番の軋んだ音を立てて、小屋の扉がわずかに開き、ぎょろりとした目が隙間からのぞく。その色を見て、シズナは一瞬息を呑む。
暗がりで微かに外の光を反射するその瞳の色は、シズナと同じ碧であった。
瞳の主は、ミサクの姿をみとめると、即座に扉を閉めようとした。しかし、ミサクが咄嗟に靴先を挟み込んだ事で、それは失敗する。
「貴方の協力が必要になった。どうか話を聞いて欲しい」
いつも以上に真剣なミサクの表情を見て、小屋の中の人物の瞳が揺らぐ。その碧色が、ミサクの後ろにいるシズナ達を順繰りに見回し、驚きをもって再びシズナに焦点を合わせたかと思うと、
「……お前」低い声が、耳朶を叩いた。「まさか、シズナか」
こんな山奥に住む人間が、自分の名前を知っているとは。勇者の知名度とはそれほどのものなのかと思ったが、相手の反応は、どうも勇者を前にした恐れからではない。昔のシズナを知っているかのような声色だった。
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