第7章:きっと誰もが嘘を吐く

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第7章:きっと誰もが嘘を吐く

 ひとつ、溜息が聴こえた。中にいる人間が扉を開け放つ。あらわになった相手の顔を見て、シズナも驚きに目を見開く羽目になった。  それなりに鍛えられた身体をした、壮年の男性だった。瞳はやはり碧色。ぼさぼさに伸びた髪と無精髭は、銀に近い薄金色をしている。だが、シズナの動揺を煽ったのはそこではない。顔に傷があるかどうか、そこの差こそあれど、彼の顔は、亡き父エルシと瓜二つだったのである。そういえば、発した声も、父にひどく似ていた。  心臓が逸る。これは偶然の一致なのか、それとも何か意味を持っているのか。 「……部屋が冷える。早く入れ」  ミサクがエルヴェと呼んだ男は、顎をしゃくり、シズナ達を屋内に促した。
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