第7章:きっと誰もが嘘を吐く

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第7章:きっと誰もが嘘を吐く

 しばし、沈黙がその場を支配し、存在する音は野菜スープの煮えるそれだけになった。 「……は?」  やがて、シズナの口から、間の抜けたそんな声が洩れる。エルヴェは髭面を歪め、ぐしゃぐしゃと頭をかきむしる。 「本当に、容赦の無い騎士様に育っちまったな、ミサク」  諦め気味の悪態をついて、エルヴェは――いや、先代勇者エルヴェリウスは、シズナに向き直り、神妙な表情で語を継ぐ。 「そこの愛想のねえガキが言った通りだ。俺が先代の勇者。兄貴は、エルシは、俺の身代わりになった」  事情がよくわからない。シズナが混乱するのもわかっていたのか、エルヴェは話の口火を切った。 「俺の先祖は代々勇者だった。十八年前、俺がその」  やはり顎でしゃくるように、シズナの腰に帯びた聖剣『フォルティス』を示す。 「『フォルティス』を青く輝かせた事から、勇者の末裔だと崇め奉られて、魔王を倒す為に、四人の仲間と旅立った。その中に、兄貴とイーリエも王国つきの魔法士と剣士として同行していた」  突然旅の仲間として出てきた両親の存在に、シズナは驚きを隠せない。両親が、そんな冒険譚を抱えていたのか。しかしそれと同時に、父の手先の器用さや、母の力仕事の特化ぶりにも納得がゆく。 「俺は戦ったよ。向かってくる魔物を片っ端からぶっ倒して、勇者様だ何だってどこへ行っても歓迎されて、有頂天になってた」  だが、と、うつむけた顔に、恐怖に近い色が宿った。 「俺は知っちまったんだ。魔王を倒した時に。この戦いは、アナスタシアの仕組んだ茶番だって事を」
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