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第7章:きっと誰もが嘘を吐く
勇者は魔王を倒し、魔王は一定の期間を置いて再び現れる。唯一王国は勇者を見出し、勇者は魔王を倒す。その繰り返しなのだ。
「全部、アナスタシアが国威を維持する為の出来レースだったんだよ」
エルヴェが憎々しげに口元を歪めた。
「勇者は魔王を倒す為にいなきゃなんねえ。だが、魔王を倒した後、唯一王より人気が出ない為に、何かしらの理由をつけて消されなきゃなんねえ。悲劇の英雄としてな」
勇者の多くは、戦いの後市井に降り、やがて次世代の魔王に殺された。だがある時、奉られる事に驕った勇者が唯一王の地位を脅かそうとし、激怒した時の王は、勇者を『魔族にたぶらかされ世を乱そうとした反逆者』として処刑した。
その時から、勇者は役目を終えれば、勇者としての力、あるいは存在そのものを消される運命を課されるようになった。
「俺はそれを先代の魔王から今わの際に聞いた。怖かったよ。怖いもの無しで魔物をぶっ殺してきた勇者が、みっともなくブルったね」
誰も死にたくはない。魔王の血に濡れた『フォルティス』を手にがたがた震えるエルヴェを諭したのは、双子の兄であるエルシだったという。
『ならば、勇者を偽れば良いだろう』
誰よりも冷静な兄は、弟の手から聖剣を抜き取り、高々と掲げた。
『唯一王にはこう報告しよう。勇者エルヴェリウスは不慮の事故により聖剣を扱えなくなった。代わりにエルストリオが聖剣を手に魔王を打倒し、真の勇者となった、と』
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