第7章:きっと誰もが嘘を吐く

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第7章:きっと誰もが嘘を吐く

 もう、勇者としては戦えない。エルシは唯一王に隠遁を申し出、身籠っていたイーリエが子供を出産するのを待って、唯一王都を去り、表舞台から姿を消した。 「それがアナスタシアのやり方だ。で、俺は死んだも同然の人間として、赤ん坊のミサクを連れて、この山に引っ込んだ。それが事実だ」  シズナはもう、言葉を失って唖然とするしか無かった。  アナスタシアに腐れた空気が漂っているのは、この一年で嫌というほど身に刻み込まれた。だが、唯一王が国を、己の地位を存続させる為に、そんな筋書きまで用意しているとは、考えが及ばなかったのだ。  一年前ならわからなかった。だが、今なら想像がつく。シズナが勇者として旅立ち、魔王アルゼストを倒せればその後、魔王の子を産んだ裏切り者として消すつもりだろう。きっと、魔王と相討ちになるなら尚の事良し、だ。そうして十数年後、また新たな魔王が現れた時に、シズナから奪い取った子を新たな勇者として大々的に世間に公表し、聖剣の勇者として旅立たせるに違いない。 『魔王の娘が我ら唯一王国の救い主となった』
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