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第7章:きっと誰もが嘘を吐く
だが、凶刃がシズナの喉を切り裂く事は無かった。咄嗟にミサクが放った一撃が、防御を捨てたアティアの頬をかすめ、彼女が舌打ちしてそちらに気を取られた隙に、シズナは軋む身体を叱咤して『フォルティス』を突き出す。
赤い刃は、吸い込まれるようにアティアの胸を貫いた。
一滴、二滴と、赤い雫が零れ落ちる。裏切り者は喀血の声と共に赤いものを吐き出し、信じられないといった様子で、己の胸に突き立てられた聖剣を見下ろしていたが、やがて、よろめきながらも後退して、自ら刃を引き抜いた。その服が、あっという間に血に染まってゆく。
「……それで」
味方だと思っていた相手を刺した。その事実に身体が震え始めるシズナの耳に、アティアの声が届く。それはいつも自分を労り慈しんでくれた、姉のようにさえ思っていた侍女のものだった。
「それでいいんですよ、シズナ様。貴女は、それで」
更なる血を吐きながら、彼女は、一歩、二歩と後退する。
その先には死しか待っていない、崖へ向けて。
「シズナ様。わたしは、どこまでもまっすぐな貴女が大好きで」
アティアは柔らかく笑んだ後。
「どこまでも無知な貴女が、大嫌いでした」
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