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第7章:きっと誰もが嘘を吐く
嘲るように口元を歪めて、地を蹴り、何も無い空中へ身を投げ出した。
永遠とも思える刹那に、駆け寄って手を取る暇は無かった。アティアの身体はしばらく滞空したが、一瞬後、血の尾を残しながら落下して視界から消えた。
嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。
その言葉が脳内をひたすらに駆け巡る。
初めて会った時の、孤独な中に灯った親しみの光。ヘルトムート王に見捨てられた自分を心から案じてくれた困り顔。子を奪われた時の、申し訳無さに満ちた落ち込みぶり。旅に出てからも何くれと面倒を見て、場を盛り上げようとしてくれた明るさ。
あの明朗な顔の下に、あんな憎悪を隠していたのか。気づいてやれなかった後悔が、怒涛のように胸に訪れる。
「……シズナ」
目の端に浮かぶものを必死にこらえていた所に静かに声をかけたのは、ミサクだった。神妙な顔でこちらの腕を引く。
「貴女の気持ちもわかるが、今はすぐにでも戻ろう。エルヴェから、話を聞ききらなければ」
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