第7章:きっと誰もが嘘を吐く

1/1
前へ
/238ページ
次へ

第7章:きっと誰もが嘘を吐く

 感傷に浸る暇も与えてくれないのかと苛立ちが募りかけたが、しかし、エルヴェはシズナをかばってアティアに刺された。相当量の血も流れていたから、命に関わるかも知れない。一刻も早く戻り、聞ける事は聞かなくてはならない。  もう、『フォルティス』は怒りの色を消し、透明に戻っている。それを鞘に収めると、シズナはミサクと共に、エルヴェの小屋への道をひた走った。  小屋に戻ったシズナの五感に入ってきたのは、ことこと煮えるスープの音と、野菜の香り。それを打ち消すほどの血のにおいと、横たわるエルヴェとその傍らに膝をつくコキトの姿であった。 「エルヴェは」  ミサクが珍しく焦った様子で訊ねると、コキトは色眼鏡の下の目を細めた様子で、ゆるゆると首を横に振った。 「あのお嬢さん、相当の手練れだったのを隠してたね。見事に急所を突いて、私の『回復律』でもおっつかない」  コキトの『回復律』が効果を及ぼさないという事は、シズナが同じ魔法を使っても無駄だという事だろう。シズナが元勇者の傍らに屈み込むと、ごつごつした大きな手が、こちらの頬に触れた。 「……シズナ」
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加