第8章:仮面の下に秘められた

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第8章:仮面の下に秘められた

 山を降りても、肌寒さは和らぐ事が無かった。もうすぐ冬が、アナスタシアに近づいているのだ。  エルヴェを弔った後、三人になったシズナ達一行は北の山を後にし、夢惑の森を再び抜けて人の住む地域まで戻ってきていた。  二人も旅の仲間を失い、魔王城の場所を知るエルヴェもいなくなった今、一度王都に帰還してヘルトムート王に謁見し、仲間の補充を願い出る手もある。  だが、シズナもミサクもコキトも、三人揃って出した意見は、 「それは嫌だ」  であった。  ミサクとコキトがどういう意図をもってその考えに至ったのか、シズナに知る術は無い。だが少なくともシズナの胸中では、どこに邪な考えを持っている人間がいるかわからない、素知らぬ顔で裏切り者が混じっているのではないか、そんな疑いの芽がびっしりと根を張って、これ以上他の人間と同道する事を疎んじていた。  それに、勇者はアナスタシアにとっては国を回す為の一部品にしか過ぎない事をエルヴェから聞いた今、あの王の前に出るのが癪でたまらなかった。抱くに値しない、魔王の居城も見出せない勇者が帰還したら、あの愚鈍な王はここぞとばかりにシズナを抹殺して、もっと自分の思い通りになる誰かに、勇者の役目を押しつけるかもしれない。真に聖剣を扱える者がこの世にいなくなったとしても、だ。
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