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第8章:仮面の下に秘められた
「それも悪かないけど、それじゃあ頭が重たい上に、完全に相手がわかんないからね。ゆきずりなんてほんの建前。目元だけ隠す仮面をつけて、ほとんど誰だかわかる状態で、本命と踊るんだよ」
つまり相手はあらかじめわかりきっているようなものか。つまらない、と感じる反面、本命の相手と踊れるようにするには、その程度の仕込みでなければいけないだろう、と納得する部分もある。
「仮面舞踏会は何度か開催されるが、今夜もあるはずだ。シズナも興味があるなら、息抜きに行っておいで」
「うん……」
本当は、そんな浮かれ事に現を抜かしている場合ではないだろう。しかし、これまでの道程ですり減った心を癒すには、『勇者シズナ』の姿を知らないこの街で誰かと踊って、憂さを晴らすのもありかもしれない。生返事をしながらも、シズナの胸中では、密かに浮き立つ気持ちがあった。
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