第8章:仮面の下に秘められた

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第8章:仮面の下に秘められた

 遠き稜線の向こうに日が落ちて、街の広場のあちこちに、松明の火が明々と灯る。  そんな場所に、笛とギターによる古くからの舞踊音楽が流れ、仮面で目元を隠した男女が、笑みを交わしながらステップを踏んでいた。それぞれ意中の相手を見つけて、あるいは一晩の恋人と出会って、この時間を楽しんでいるようだ。  どうやら、自分は完全に出遅れたらしい。シズナは、広場外れの建物の壁に背を預け、青い蝶を象った仮面の下から、幸せそうな人々の姿を眺めて、溜息をついた。  浮かれた彼らは知らない。勇者がこの場で一人、鬱屈した気持ちで自分達を見つめている事を。  故郷の村でも、夏の終わりに大きな火を焚いて、それを囲んで皆で踊ったものだった。自称元吟遊詩人を吹聴していた優男のジャンがリュートを奏でるのに合わせて、村人達が手に手を取って笑い合う。その時ばかりはシズナも、ユホの冷たい視線を忘れて、アルダと向き合い幸福の時間に浸った。  あの日は、二度と帰らない。  沈んだ気分になって、二度目の溜息をついたその時、視界にふっと滑り込んできた人影に気づいて、シズナはうつむけていた顔を上げ、そして、仮面の下で瞠目した。
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