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第8章:仮面の下に秘められた
まっすぐこちらに向けて歩いてくるのは、黒い仮面の男だった。服装はカナルトの街の住人と変わらぬ素朴な格好で、紛れてしまえば一般人と区別がつかない。
だが。
一目見て、シズナには彼が誰だか察しがついた。
この一年で大分伸びたらしい紫の髪を、高い位置で結っている。その鼻梁、口元、顔の形は、十数年毎日見つめてきた。目を隠した程度でわからなくなるものではない。
心臓がどくどくと激しく脈打っている。唇が名前を呼びたくて震えているが、今ここでそれをしてはいけない事は、かろうじて理性が忠告した。
ゆっくりと。彼がシズナの前に立つ。少し背も伸びただろうか。以前よりも見上げる形になる。
「お嬢さん」
ずっと聴きたかった穏やかな声が耳朶を打ち、すうっと、右手が差し伸べられた。
「よろしければ、今夜限りのお相手を」
仮面の下から、紫の瞳がまっすぐにこちらを見つめているのがわかる。それだけで、郷愁が胸に迫り、喉の奥から熱いものがせり上がって、叫びとして迸りそうだ。
それを必死にぐっと呑み込むと、
「……よろしくお願いします」
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