第8章:仮面の下に秘められた

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第8章:仮面の下に秘められた

 音楽と人々の踏むステップにかき消されそうな細い声で返し、しかししっかりと、自分より一回り大きいその手を握り返した。  二人手を繋ぎ、しずしずと踊りの輪の中へと歩を進める。新たに参加した恋人達の為に、人々が踊りながら自然に、少しだけ場所を開けてくれる。  静かな曲に合わせて、シズナは彼と共に、舞の一歩を踏み出した。  手を組みながら踊れば、様々な思い出が、一瞬一瞬浮かんでは消える。  共に草原を駆け回った幼い日。ガンツにどやされながら剣の修業を始めた頃。星座を読み解いた夜。初めての口づけを交わした夕暮れ時。幸福をかみ締めた一夜。  それらを踏みにじるほどの悪夢を見たのに、今、思い出すのは、懐かしさに目尻が濡れるような、笑いと幸せに満ちた日々であった。 「髪を、切ったんだね」  背中に手を回して、シズナをリードしながら彼がぽつりと呟く。 「色々あってね、不可抗力よ」  右へ、左へ。ゆったりとステップを踏みながらシズナは返す。 「長い方が良いと言った事があるけれど」  彼の口元がゆるみ、仮面の下で紫の瞳が細められる気配がした。 「短いのも可愛い」
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