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第8章:仮面の下に秘められた
広場の曲が遠く聴こえる他は、葉擦れの音と二人の沈黙しか残らない。不安を感じ始めた頃、アルダがふっと寂しげに笑んで、
「シズナ」
こちらの名を大切そうに呼び、次に、予想だにしていなかった問いかけを、神妙に投げかけた。
「君は、この世界が滅びても良いか」
突然の質問に、瞬間、シズナはぽかんとしてしまう。しかし、頭はやたら冷静に思考を弾き出した。
彼は今、シズナを試しているのだ。あえて『シズナ』と『アルダ』の素顔をさらけ出した状態で、『勇者』に『魔王』として。
この世界に、守る価値があるか、と。
「この一年、君に何があったかは、俺も知っている。アナスタシアには人間の姿をした魔族の者が入り込んで、情報を集めている上に、『透過律』である程度の情報は直接見る事が出来るから」
つまり、アナスタシアが魔法でシズナの存在を感知していたり、特務騎士が一般人の間に溶け込んでいるのと同じような事を、魔族側もしているという事か。アティアがそうであったように、どれだけの人間が魔族に通じているのかぞっとすると同時に、冷静に理解もする。シズナの行動は、きっとアルダに筒抜けだったのかも知れない。自分達の大切な、絆の証が失われた事も。
シズナがその考えに至るのを待っていたかのように、アルダが口を開いた。
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