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第8章:仮面の下に秘められた
「俺にはもう、絶望しか残っていないから。君を抱き締める資格も無いから。だから」
アルダが顔を伏せる。頬に触れた手がより温度を失くし、小刻みに震えているのがわかる。
「君の手で、全てを終わらせて欲しい」
何故だ。何故今更、そんな事をシズナに言うのか。驚きはやがて、怒りへと転化する。
「ふざけないで!」
シズナの喉から激情を包括した声が飛び出した。アルダの手を叩き落とし、碧眼で、ぎんと相手を睨みつける。
「今更、そんな事を私に言う為に、わざわざ来たの!?」
今更他人の手による死を望むくらいなら、勝手に自分で死ね。そんな考えが脳裏を横切った後に、何故、の連呼が繰り返される。
何故、魔王として人々を苦しめたのか。
何故あの日、魔剣『オディウム』を振るって故郷を壊したのか。
何故、シズナを愛したのか。
訳がわからない。誰もがシズナの心を打ちのめし、削り取ってゆく。引っ込みかけていた涙が、再び目の端に寄せてくる。
「君にしか頼めないんだ。いや、君にしか頼みたくない」
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