第8章:仮面の下に秘められた

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第8章:仮面の下に秘められた

「私にもわからない。アルダが本当に世界の敵なのか。そしてわからない。私自身がどうしたいのか」  それはまごうかたなく、今のシズナの本音だ。唯一王国の言うままに『魔王アルゼスト』を討つ気はとうに失くなっている。かと言って、アルダの望むままに彼に死を与えるのも、それはそれで違う気がする。  では、生きて欲しいのか。  そう己に問いかければ、「わからない」としか返らない。  アルダに生きろと言って、どうすれば良いのか。彼の首根っこを引っつかんでどこかへ共に隠遁すれば良いのか。彼を見放して一人で山奥へ帰るべきか。どこへ行き、何をすれば良いのか、今は全く見当がつかない。  唇を噛み締め、顔をうつむけた時。 「シズナ」  背後から、アルダがこちらの右手をつかんだ。反射的に振り払ってしまったが、その時には、掌に何かが収まった感触を知覚する。 「俺は君を待ってる。君が答えを出したその時、その『天空律』が、君を導いてくれるだろう」  はっとして振り返れば、アルダは静かに微笑みをたたえていた。そうして、ミサクが次射を発する間も無く突風に包まれて空中に浮き、そのまま闇に溶けるように、消えた。 「『転移律』か」  ミサクが目を細めて軽く舌打ちする。彼にしては随分と感情を露わにするものだと思いながら、シズナは自分の手の中に残された物へ視線を落とす。 『天空律』  アルダが残した、果てしない可能性を秘めたような名を持つ魔律晶は、夜闇の中でもうすぼんやりと白い輝きを放ち、遠くから聴こえる踊りの曲に合わせて、りん、りん、と小さく鳴いていた。
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