第1章:血染めの祝福

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第1章:血染めの祝福

 ユホだ。その皺くちゃの顔は見慣れている。だが、今までに無いほどの悪意がその小さな身体から溢れていて、シズナは目眩すら感じ、咄嗟に隣のアルダにしがみついた。夫も同じ思いを抱いたのだろうか。シズナを守るように、肩に回した手に力を込める。 「幸せそうなお二人に、この婆からも、贈り物をあげようね」  邪意は確かなはずなのに、いやに優しさを装った、ねっとりとした声が耳の奥に絡みつく。老婆は背後に手を回して何かを持ったまま、ゆっくりと新たな夫婦のもとへ歩み寄ってくると、不意に唇の両端をにたりと持ち上げて、背にあった何かを振り上げた。  直後。  ごとり、と音を立てて、シズナ達の足元に丸い何かが落ちる。  はじめは何だか訳がわからなかった。だが、ごろりと転がったそれに、髪が、鼻が、口がついている。目は驚きに見開かれたまま、しかし既にここを映していない。  ガンツの赤ら顔だった。  数瞬遅れて、首を失った身体から、飛沫のように血が飛び出し、数歩よろめいて、首から少し離れた場所にどうと倒れ込んだ。
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