第1章:血染めの祝福

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第1章:血染めの祝福

 静まり返っていた宴の場に、最初の悲鳴をあげたのは誰だったのか。自分だったかもしれないとシズナは思うが、あまりの混迷に、それを記憶に残す事は出来なかった。たちまち祝いの席は阿鼻叫喚に満ちた。 「平和に呆けた愚か者どもに、死の刃を」  ユホの手には、透明な刃の剣が握られていた。それが鮮血を帯びて、地上に向いた切っ先から赤い雫が滴っている。 「そして新たな魔王に、祝福を」  速まり過ぎてそのまま止まるのではないかというほどに脈打つ心拍数に、切れ切れの呼吸をするシズナを、ユホは強く突き飛ばしてアルダから引き離したかと思うと、何を思ったか、少年の顔を強引に引き寄せ、唇を重ねた。  驚愕して立ち尽くすシズナの眼前で、アルダが目を丸くする。その間に、ユホの姿が陽炎のように揺らいで変わってゆく。皺くちゃだった肌は艶を取り戻し、白髪が黒く染まって、小さな身長は伸びてゆく。 「さあ、魔王の御子よ」  あっという間に二十歳そこそこの妖艶な女の姿へと変貌したユホが、真っ赤な唇をアルダから離し、ぺろりと舌で拭って、立ち尽くす少年の手に、血濡れの剣を握り込ませる。
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