第1章:血染めの祝福

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第1章:血染めの祝福

 そこから先は、悪夢だった。  たちまち空が夜中のように暗くなったかと思うと、ぼうっと音を立てて、村のあちこちから火の手があがった。黒と赤の下、何か獣のような生き物が駆けてくる気配がする。それもひとつふたつではなく、大勢。それらは炎の中を逃げ惑う村人達に容赦無く飛びかかり、大きな悲鳴を量産した。  一体何が起きているのか。混乱するばかりのシズナに、何かが飛びかかってくる。鋭利な刃のようなもので左腕を引っかかれて倒れ込み、痛みに顔をしかめた拍子に、手にしていた紫苑のブーケはすっぽ抜けてどこかへ消えた。  火の手が勢いを増したようだ。煙が目に染みて痛い。喉を突いてむせ込む。愛しい人の姿を求めて地面を這うように見えない視界を探った時、ぽた、と右手の甲に何かが落ちた。左手で拭えば、ぬるりとした感触が返る。  ぎょっとして顔を上げ、シズナは更なる震撼で、最早言葉を失ってしまった。  アルダだ。アルダが立っている。だが、その紫の瞳は、シズナに愛を囁いてくれた穏やかさを既に失い、意志の読めない仄暗さに満ちていた。
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