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第1章:血染めの祝福
返されたのは、アルダの声だった。幼い頃から、声変わりをしても聞き間違える事の無かった彼の声だ。だが今、その声に抑揚は無く、絶対零度の冷たさを帯びている。
「俺が手を下さずとも、魔物が喰らわずとも、誰も来ないこの村の奥地では、やがては餓えるか凍えて死に至る。放っておけ」
「しかし」「くどい」
不服そうなユホを、アルダがぴしゃりと黙り込ませる。いつも老婆とシズナの仲を心配して、何とか取り持とうと気を遣ってくれた彼からは想像のつかない、突き放した声音だった。
「新たな魔王に逆らうのか」
「……出過ぎた真似をいたしました、お許しを」
「わかればいい」
アルダが踵を返す気配がする。村に満ちていた獣――ユホの言葉を借りるなら、『魔物』――も遠ざかってゆく感覚がする。
行かないで、アルダ。
願いは音にならない。たとえ声になったとしても、彼に届くとは到底思えない。
ああ、きっとこれは夢だ。悪い夢を見ているのだ。目が覚めたらきっと、いつも通りアルダの笑顔が包み込んでくれる。
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