第1章:血染めの祝福

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第1章:血染めの祝福

 しかし、炎と煙は否が応にも現実の感覚を突きつける。痛みに麻痺した目から、涙はとめどなく溢れる。そのまま、シズナの意識は闇より尚暗い深淵へと落ちてゆくのだった。 「――か。生きているか」  誰かに呼ばれて、シズナはゆるゆると夢の無い眠りの底から引きずり出された。アルダの声ではない。両親のものでもない。一体誰だろう。目をしばたたいてぼやける視界を見つめていた碧眼は、唐突に正気の光を取り戻した。  闇は去っていた。だが、周囲には、物の燃えた焦げ臭さと、狩りの時以上の血のにおいが充満していて、鼻腔を刺激する。  まだ痛む頭をおさえながら身を起こせば、誰かの腕が背中に回され、支えてくれた。その腕の主を視線で辿る。  見た事の無い人物だった。歳の頃はシズナと同じくらいだろう。少年ぽさを残した顔は端正で、空の青の瞳が短めな銀髪によく映える。 「貴女がシズナだな」  知らない相手に名前を言い当てられ、思わず身を固くすると、少年は困ったように目を細めて、少しだけ口元をゆるめた。 「そうだな。外界と隔離されて暮らしてきて、いきなり知らぬ男に名を呼ばれては、戸惑うのも無理は無い」
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