第1章:血染めの祝福

1/1

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/238ページ

第1章:血染めの祝福

 だが、現実は御伽話の通りではなかった。むしろ逆だ。魔王と呼ばれたアルダの剣によって、勇者だったという父の首は、胴体と永遠に泣き別れた。  身体の震えが止まらない。歯の根が合わなくてがちがちと耳障りな音を立てる。 「……皆は」  ようよう出てきた言葉は、切なる願いを込めた問いかけだった。 「村の皆は。無事な人はいるの?」  その質問に、ミサクの青の瞳が曇る。 「僕の部下が村中を捜索したが……」  そうして彼は顔を伏せ、首を横に振る。それが答えだ。  シズナは限界まで目を見開く。震えは、恐れから、怒りのそれに代わる。  何故だ。 「どうして」  勇者の血族の存在を知っていたなら、何故。 「どうしてこうなる前に、助けにきてくれなかったの!?」  シズナの血を吐くような叫びは、虚しく灰色の空に吸い込まれる。彼女の嘆きを受け止めたかのように、静かに空が泣き出した。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加