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第2章:魔王の花嫁
左手に視線を落とす。そこには、亡き父手製の銀の指輪がはまっていた。アルダは今もまだ、同じ物を身に着けてくれているだろうか。それとも、魔王として覚醒した時に、自分への愛と共に捨ててしまっただろうか。そんなアルダの傍に、妖艶な女に化けたユホが、我が物顔で寄り添っているのだろうか。
悪い想像は脳内で入道雲のようにもくもくと膨らみ、希望的観測を駆逐してゆく。そんなシズナを一瞥して、ミサクは窓外へと視線を転じ、そうして、唐突に眉をひそめた。
「……つけられているな」
何の事を言っているのか、シズナにははじめわからなかった。だが、馬車の車輪が回る音に混じって、羽ばたきの音と、きいきいと硝子板を引っかくような耳障りな声とが聴こえてくる。
見てはいけない。きっと恐怖にすくみ上がる。そう警告する理性とは裏腹に、知りたい心は恐れを駆逐する。シズナはのろのろと背後のはめ込み窓を振り返り、そうして、息を呑んだ。
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