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第2章:魔王の花嫁
ハルピュイア、とミサクが呼んだ魔物と馬車の距離が迫る。すわ窓を破ってシズナにその鉤爪を突き立てるのではないかと思われた時、先頭の一匹が、突然ぎゃあっと悲鳴をあげたかと思うと、眉間から血を噴いてのけぞり地面に転がって、あっという間に遠くに置き去りにされた。
一体何が起きたのか。シズナが唖然としている間にも、残るハルピュイアは胸から、あるいは顔から血を噴き出して、一撃で命奪われ街道に屍をさらす。その姿も、すぐに遠ざかって見えなくなった。
まだばくばく高鳴っている胸をシズナがおさえていると、ミサクが軽やかに窓から馬車内へと飛び込んできた。血のにおいはしなかったが、何となく煙臭い気がする。それが先程彼が言っていた『魔法』なのか、それとも他の手段を使ったのか、今のシズナには見当がつかない。
「ひとまず、大丈夫だ」
土埃を落とすかのように手をはたいて、何事も無かったかのごとく平然と椅子にかけ直し、ミサクは静かに告げる。
「魔王の尖兵だ。勇者である貴女を王都に行かせまいと、襲ってきたんだろう」
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