第2章:魔王の花嫁

1/1

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/238ページ

第2章:魔王の花嫁

 少年のあまりにも単調な口ぶりとは相反する物騒な内容に、シズナの心臓はさらにどきりと脈打った。魔王が人類の天敵であるように、勇者は魔族に仇なす存在。卵が孵る前に闇に葬り去ろうという考えは、簡単に浮かぶだろう。  自分が命を狙われている。隙あらばこの喉に牙を突き立てようと虎視眈々と機を窺っている存在がいる。その事実は、シズナの背筋にぞっとしたものを這わせ、寒くもないのにぶるりと身を震わせるには充分な威力を伴っていた。  明らかな恐怖に額から汗が吹き出し、両腕で己の身を抱き締めてうつむく。すると、ひんやりした手が額に触れ、汗を拭ってくれたかと思うと、頬を辿り、首筋に指を当てて、「深呼吸して」と囁きが耳に滑り込んできた。  言われるままに大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。指が触れた箇所の血管がとくん、とくん、と脈打つ感覚がして、次第にその拍が鎮まってゆくのが、自分でもわかる。 「落ち着いたか」  その声に面を上げれば、ミサクは至近距離から、心底案じるような表情で、シズナの顔を覗き込んでいる。 「医学的な根拠は一切無いが、気持ちを落ち着けるには良いと、育ての親に教わった。効果はあったか」
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加