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第2章:魔王の花嫁
「え、ええ」
ゆるゆると頷けば、シズナの怯えも見通してか、
「心配しなくていい」
ミサクが青い瞳でまっすぐにこちらを見つめて告げる。
「魔物もさすがに唯一王都の中までは攻め込んでこない。王都にいる兵がすぐに退治するし、万が一貴女のもとへ魔物の手が届きそうになった時は、僕が必ず、彼らを殺す」
自信を持って言い切ったその瞳に、決意の炎が燃えているのを見て、シズナの胸に疑念が生まれた。
何故、この少年は、ほぼ初対面の自分に対して、そんなに真剣にシズナの敵を排除すると言い切れるのだろうか。
かつてアルダにも、
『君を泣かせる奴がいたら、俺が許さない。君を悲しませるもの全てから、俺が君を守る』
と紫の瞳で至近距離から見つめられ、情熱的な口づけをもらった事があった。あの時の彼のような熱情を、何故、出会って一日のこの少年は自分に向けてくれるのか。
その思いと同時に、アルダは結局約束を守ってくれなかった、という切なさが胸に迫る。どんなに彼の想いが本物でも、ユホの嫌がらせを遠ざける事は出来なかったし、何より、アルダ自身がシズナの心に哀しみの虚を穿った。
そしてそれはもう、元に戻る事は無いのかも知れない。
改めて喪失感に襲われ、じわりと目の奥に溜まった熱いものを、鼻をすすって引っ込めた時。
「そろそろ王都に着くから、見ていると良い。あの村とは何もかもが違い過ぎて吃驚するだろうが、じきに慣れるさ」
シズナの鬱屈した心情を感じ取ったのか、ミサクが気分を変えようとばかりに少しだけ明るめの声色で言ったので、シズナは目をこすって窓に取りつく。そうして、碧の瞳を驚きに見開いた。
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