第1章:血染めの祝福

1/1

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/238ページ

第1章:血染めの祝福

 ぽかん、と、先程までより少しだけ力の入った一撃が、少年の頭を打つ。それから少女は、頬の膨らみを引っ込ませると、秋の雲高い空を見上げて、「戦場、か」とぽつりと呟いた。 「本当に、そんな場所に私達が出る事があるのかしら」  少年と少女は戦場を知らない。いやそれ以前に、物心ついてこのかた、山奥の盆地に存在するこの集落周辺から出た事が一度も無いのだ。  ここは、隔離世(かくりよ)の村。様々な事情があって外界で暮らせなくなった人間が、噂だけを頼りに辿り着いて編み上げる、小さな世界。  彼らは共に田畑を耕し、獣を狩り、魚を釣り、木の実を集めて分け合い、互いに助け合って暮らすが、決して侵してはならない不文律が存在する。  それは、「相手の過去を探る事」。  すねに傷持つ人々が身を寄せ合い、平和を保つ為には、互いの過去を勘ぐってはならない。要らぬ厄介事をこの地に呼び込む事になりかねないからだ。探りを入れにきた輩は、村人達が総力を挙げて排除する。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加