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第2章:魔王の花嫁
己の仕事を果たしたアティアが満足げに小鼻を膨らませ、それから、「あら?」と、今気づいた様子で、シズナの左腕を取った。
「シズナ様、お怪我をされていますね」
言われてシズナも視線を落とす。一直線に刻まれた切り傷。あの惨劇の中、魔物によって作られたものだ。既に血は止まり塞がりかけていたが、認識してしまうと、忘れていた痛みがしくしくと蘇る。
「念の為、お薬を塗っておきましょうか」
「いいえ」
アティアの気遣いに、シズナは首を横に振ってそれを拒んだ。
「大丈夫。このままで」
忘れてしまいたい。あの悪夢を。愛しいアルダの変貌を。だが同時に、この痛みを消す事は、十数年抱き続けたアルダへの気持ちをも忘れ、捨ててしまうような気がして、身に刻み、憶え続けていたかった。
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