第1章:血染めの祝福

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第1章:血染めの祝福

 かつて、シズナとアルダが幼い頃、迷い人に扮した暗殺者が、標的を求めて村にやってきた事があった。その時、普段は温厚でシズナ達にも菓子を分け与えてくれる優しい人々が、非常に険しい顔をして暗殺者を縛り上げ、闖入者は次の日には影も形も見えなくなっていた。山を降りた形跡が無かったのと、いつも丸い顔をにこにこさせているフォルカスおじさんから錆びついたにおいがした事から、シズナ達は子供なりに、この件を深く問い詰めてはいけないのだと判断して、胸の奥に仕舞い込み、やがて記憶の彼方へと追いやった。だから、暗殺者がどうなったのかシズナ達は知らないし、標的が誰だったのかも、わからない。  秘密を抱えて暮らす、閉じられた円環の中。そこで暮らす年頃の少年少女が、外の世界に興味を持たない訳が無かった。  この村の外には、どんな光景が広がっているのか。どんな人が生き、どんな暮らしを営んでいるのか。憧れは尽きない。 『外の世界は争いだらけで、幸せな事は何も無いよ』  村人達は声を揃えて子供達を諭すが、シズナは十六、アルダは十八。夢想を捨てるにはまだ若すぎる歳だった。 「いつか、出ていくんだよ、この村を」
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