第2章:魔王の花嫁

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第2章:魔王の花嫁

 しばし、言われた意味がわからなくてぽかんと口を半開きにしたまま呆けてしまう。だが、理解した瞬間、この国王は一体何を訊いているのかと驚愕がこみ上げて、シズナは思わず顔を上げてしまった。  いきなり振り仰いだ無礼にも、国王は動じなかった。顎髭をゆっくりと撫でながら、ねばついた笑みを顔に張り付かせている。視線を滑らせれば、隣の女性の表情が更に険を増した気がした。  ミサクが本当に小さく溜息をつくのが聴こえる。シズナの困惑に追い討ちをかけるように、ヘルトムート王はとんでもない発言を放ってきた。曰く。 「この城に仕える女は全て儂の手の内に入る。まずはその身を唯一王に捧げるのがならわしだ」  シズナは愕然として、出損ねた咳のような息を洩らしてしまった。この老王は、文字通り身を差し出せと言ってきたのだ。初対面の男にそんな事を言われるなど、驚きと屈辱と怒りがないまぜになって、胸の内で渦を巻く。  しかしその時、シズナの脳裏を一人の面影がよぎった。あの月夜、愛をささめきながら真っ直ぐに自分を見つめていた紫の瞳。彼以外に、この身を委ねる事は出来ない。いや、したくない。 「申し訳ありませんが」
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