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第3章:好奇と敵意と親愛と
シズナがぎんと男を睨み、腕を振り払って突き放すように距離を取ると、それでもイリオスはにやにやとした笑いを崩さないまま、兵が持ってきた、刃を潰した練習用の剣二振りを手に取る。
「賭けようぜ、嬢ちゃん」
その一振りをシズナに投げ渡しながらイリオスは宣誓した。
「一本勝負だ。あんたが俺から一本取れたら、俺は何でもひとつ、言う事を聞こう。だが、俺があんたから一本取ったら」
にやり、と、口元がいやらしい三日月を象る。
「抱かせろよ」
たちまち観客から冷やかしの声と口笛が飛んだ。
「魔王の嫁なんだろ? 寂しさを埋めてやるぜ」
シズナは目を見開いて絶句するしか無かった。何て下世話な連中だろう。国王といい、この騎士といい、この城にはまともな感性の男はいないのか。
こんな無礼な男に屈服する気は無い。そもそも、アルダ以外にこの身を捧げるつもりは毛頭無い。シズナは碧眼に決意の光を宿らせると、無言で剣を正眼に据える。イリオスはにやけ顔のまま、片手でシズナを指し示すような構えをした。
二人からやや離れた位置に立ったミサクが、眉をひそめて嘆息しているのが横目でうかがえる。彼だけはこの馬鹿げた場で正気を保っているようだが、勝負を止める権限は無いらしい。すっと手を頭上に掲げると、
「始め!」
と、空気を叩く一声と共に、勢い良く振り下ろした。
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