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第3章:好奇と敵意と親愛と
そのあまりにも平坦な態度に、ヘステも気概を削がれたらしい。「ふ、ふん!」と忌々しそうに顔を歪めながらも、錫杖を引っ込める。
「ならばせいぜい、その田舎娘を教育する事よの!」
捨て台詞を残し、兵を引き連れて王妃は廊下の向こうへ去る。膝をつき頭を垂れたまま動かなかったミサクだったが、王妃の姿が角を曲がって見えなくなった途端、ぐらりと傾いで床に倒れ込んだ。
「ミサク!?」
シズナは驚いて彼の傍らに屈む。顔を覗き込めば、強く殴られたせいだろう、こめかみを血が伝い、絨毯まで滴り落ちて、その赤を更に赤く染めていた。
手当てをしなくては。落ち着きを失った頭でそう思い、懐にしのばせておいた手布を傷口に押し当てようとした時。
「……大丈夫だ」
ミサクの手がそれを押し返し、彼は頭を振りながらゆっくりと身を起こした。
「でも」
かなり痛そうな音がした。それに彼は、シズナの身代わりになってこんな怪我をしたのだ。責任は取らねばならない。
だが、しかし。
「貴女が負い目を感じる必要は無い」
拳で血を拭いながら、ミサクは深々と息をつき、青い瞳をじっとシズナに向けるのだ。
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