第3章:好奇と敵意と親愛と

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第3章:好奇と敵意と親愛と

 ふらつきながらも立ち上がったミサクに連れられて、シズナはひとつの部屋の前に導かれた。閉じられた扉越しにも、つんと鼻を突く薬品のにおいが漂ってくる。  ミサクが扉を数回拳で叩くと、「いるよ」と、男か女か判別のつかない声が端的に返ってくる。それに応えて騎士が扉を開けば、薬のにおいがより強くなり、シズナの想像の範囲を超えた光景が眼前に広がった。  机の上に並んだ、透明な液体の入った硝子瓶。その中に、青や赤、緑、紫、白、黒といった、掌で軽く包み込めそうな大きさの、鉱石のような物体が入っている。形は様々で、動きも、浮き沈みを繰り返している物もあれば、ゆるりと漂っている物、底に沈んであぶくを生み出している物もある。  そんな瓶の合間から、ゆっくりと立ち上がる者がいて、シズナはそちらを向き、またもあっけに取られる羽目になってしまった。  裾の長い濃緑の服をまとっていた。背丈はシズナよりほんの少し高いくらいだろう。だが、彼女を戸惑わせたのは、その者が髪の毛一本無い艶を帯びた禿頭である上に、顔もレンズの分厚い色眼鏡で目を完全に覆い隠しているせいで、男女の区別が全くつかなかったからであった。 「ああ、君がシズナ?」  相手は背を丸めた状態でひょこひょことシズナの前にやってくると、小さめの口をにやりと笑みの形にして、指の長い手を差し出した。
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