第3章:好奇と敵意と親愛と

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第3章:好奇と敵意と親愛と

 コキトが顔を向けた方向へ、色眼鏡の下の瞳もそちらを向いていると信じて振り返る。シズナをコキトに任せきりにして、手布でこめかみの血を拭っていたミサクが、今更気づいたかのように顔を上げた。 「いや、僕は大丈夫だ」 「全然だいじょばないだろ。この娘の守役はあんたなんだから、きっちり実験台になれ」  からかうようなコキトの台詞に、ミサクは深々と溜息をつく。それが了承の証と判断したシズナは、騎士の元へ歩み寄り、左手に『回復律』を握り締め、右手をミサクのこめかみに当てて、目を閉じた。  自分をかばってヘステ妃に殴られた彼の背中が、まぶたの裏に浮かぶ。あの傲慢な王妃を思い出せば怒りが再燃しそうだったが、今はそんな事を考えている場合ではないと、首を横に振る。  どうか、この傷を癒して欲しい。自分に魔律晶を扱う素質があるなら、故郷の人々を救えなかった分まで、アルダを止められなかった分まで、どうか今は、目の前の彼から痛みを取り除いて欲しい。
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