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第3章:好奇と敵意と親愛と
コキトの性別が不明なので、二人のやり取りを、悪友同士のじゃれあいと取れば良いのか、男女のふざけあいと受け取れば良いのか、判然とせずにシズナがぽかんとしていると、その様子に気づいたミサクが、不機嫌そうに眉根を寄せてコキトを睨む。
「それよりも、彼女に才能があるとわかったのだから、どんどん指南してやってくれ。剣と魔法の両方が使えるならば、勇者としての能力もそれだけ見込みがあるという事だ」
「そうだね、反応が良い弟子ならば、私も教え甲斐があるってもんさね」
その後、コキトは鼻歌でも歌い出しそうな機嫌の良さで、様々な魔律晶をシズナの手に握らせた。炎の矢を放つ『火炎律』、いざという時の飲料にも使途がある『流水律』、稲妻を飛ばす『雷音律』。基本的な魔律晶の力をシズナは次々と引き出し、コキトとミサクを感心させた。
「素晴らしい!」
コキトが興奮気味に手を叩く。
「初めて魔律晶に触ってこれだけの成果を出せるなら、魔法戦士としての資質も大したものだ」
シズナが、握り締めていた『雷音律』の黄色い魔律晶をコキトに返すと、魔法士は嬉々とした様子で受け取り、色眼鏡の下の目を、親しげに細めたようだった。
「鍛え甲斐のある子は大好きだよ。これからもよろしく頼む」
「こちらこそ、お願いします」
コキトに頭を下げながら、しかしシズナの胸中では、複雑な思いが渦を巻く。
魔族が作り出したという魔法を、あっさりと使いこなす事が出来た。それは自分が勇者の血族だから天性の才能があるのだろうか。それとも、アルダ――魔王の妻だから影響を受けたのだろうか。
それはわからない。だが、確実にわかるのは、いつかこの魔法を用いて魔王の部下を次々と倒し、彼に近づかねばならないという事だけだ。
アルダを、魔王アルゼストを倒す為に。
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