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第4章:奪われた光
城下を歩けば、色んな人間を見る。今日の夕飯を選ぶ主婦、新しい服を探す同世代の少女、家の壁の修理でもするのか木材を求める男性、薬草茶に見入る老婆。手を繋いで微笑み合いながら歩く恋人同士。母親が小さい子供をおぶり、父親が荷物を抱えて歩く、親子連れ。
そんな平凡だが幸せそうな光景が目に入ってくると、必然的に思い出す事がある。
『俺は、シズナと一緒に外の世界で幸せになりたい』
そう告げて口づけを降らせた愛しい人の顔を思い出す。真摯な紫の瞳を脳裏に描けば、今、独りで歩く虚しさが胸に迫る。
叶わなかった夢想が渦巻き荒ぶる胸をおさえながら、シズナは歩を早めて、平穏な城下街を足早に歩いてゆくのだった。
それでも、そんな生活が数ヶ月続く内に、シズナもアナスタシアでの暮らしに徐々に慣れていく。
だが、変化は確実に彼女の運命を蝕みつつあった。
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