第4章:奪われた光

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第4章:奪われた光

「あっ、シズナ様、気づかれましたか!」  アティアが黒目がちな瞳に心配そうな色を満たして、こちらの顔を覗き込んでくる。大丈夫、と返して身を起こそうとしたが、上手く舌が回らず、身体は鉛のように重くて、腕を動かすのも億劫だ。 「無理はなさらないでください、大事なお身体なのですから」  侍女はシズナの肩を軽く叩くと、サイドテーブルに置かれた水差しを手にして、シズナの口を湿らせる程度に水を与えてくれた。  深く呼吸を繰り返しながら、思い返す。夕飯をとろうとして、運び込まれた鶏肉の匂いに吐き気をもよおして実際吐き、そのまま倒れたのだ。 「すまなかった、シズナ」  女医師と話し合っていたミサクがこちらを向き、深々と頭を下げる。謝られるような何かをしただろうか。目をしばたたくと、 「貴女の身体を慮っていなかった。その……」  ミサクは言い出しにくそうに口ごもる。自分は気づかぬ内に重い病でも患っていたのだろうか。相変わらず状況が呑み込めないシズナに、「シズナ様」とアティアがこちらの手を両手でそっと包み込んで、告げた。 「大丈夫、ご病気ではありません。むしろ喜ばしい事ですよ。新たな命が生まれるのですから」
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