第4章:奪われた光

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第4章:奪われた光

 子供が出来た、と告げたら、彼は何と答えるだろうか。想像がつかない。伝える方法も、彼がいる場所すらもわからない、今となっては。 「とにかく」  金色の睫毛が震えてじんわりと濡れ始めたところに、ミサクの声がかかり、はっと目を開く。まだ重たい頭を傾ければ、青の瞳が気づかわしげにこちらを見つめていた。 「勇者としての修業は一旦中断だ。今は貴女自身の身体を大事にして、静かに過ごして欲しい」 「そうですよ、シズナ様」  アティアがやんわりと微笑み、「起き上がれますか?」と背中に手を回してくれる。その手に任せるまま、シズナはゆっくりと身を起こす。すると、湯気を立てる粥が差し出された。 「ご不調は仕方がありませんが、きちんと栄養も取らなくては、お腹の子に障りますからね。今は少しでも召し上がってくださいな」  中身のほとんど無い薄い粥だったが、ほんのりと塩の香りが漂ってくる。これくらいなら食べられそうだ。今更お腹がくうと鳴き、シズナは皿を受け取ると、スプーンでひとすくいして、口に運ぶ。塩以外の味付けが無い粥は熱を持ったまま、空っぽだった胃に滑り落ち、じんわりと身体の中からシズナを温めてくれた。
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