第1章:血染めの祝福

1/1

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/238ページ

第1章:血染めの祝福

 その様子を見て、ユホは明らかに不快感を見せた。五年前のある日などは、少し遊び過ぎて日が暮れてから帰ってきた子供達を見るなり、アルダの腕をもげそうな程に強く引いてシズナから離すと、シズナの頬を手加減無くはたき、三日消えない手形を作った。  そんな偏屈な老婆だから、シズナはユホを苦手にしていたし、村人達も彼女を腫れ物に触るように接するか遠巻きに見ているしか出来ずにいる。だが、アルダ自身は健やかに育ち、村人達に笑顔で話しかけて、 『ユホも俺の知らない所で苦労してきたから、簡単に人を信じられないんだ』  と頭を下げて回る。その人の良さに加え、アルダは力のある男手として畑仕事や狩りに実力を発揮したので、村人達も頼もしい彼に免じて、ユホの頑なな態度には半分以上目を瞑っているのだった。  だから今日も、シズナは苦手意識を押し込めて、アルダから距離を取り、ユホに向けて深々と頭を下げると、さっと踵を返す。 「シズナ!」走る背中を、アルダの明朗な声が追いかけてきた。「また明日!」  ああ、と溜息が洩れる。ユホの前でそんな事を言ったら、また彼女の機嫌が悪くなるだろうに。  しかし、そう辟易しつつも、どんなにユホに陰険な言葉を投げかけられても、「また」と笑顔で言ってくれるアルダの声を脳内で反芻すれば、頬は熱くなる。心臓が逸り出す。  軽い足取りで、シズナは自宅への道程をひた走った。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加