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第4章:奪われた光
『勇者の娘が懐妊した』という話は、その日の晩には城内の騎士団員やメイドだけでなく、末端の兵士にまで広まっていた。
流石に城下にまで伝わっては、自分達を救ってくれるはずの勇者が何をしているのか、と民達が不安がるので、ヘルトムート王が箝口令をしいた。だが、人の口に戸は立てられない。王都中に知れ渡るのは時間の問題だろう。
それでも、主にミサクやアティアが気を遣って、そういった世間の野暮ったい噂話から遠ざけてくれるおかげで、シズナは穏やかな日々を過ごす事が出来た。
具合が悪い時は素直に横になって、ぐるぐる回る視界が治まるのを待ち、身体が拒まない食べ物は積極的に口に入れる。
秋はとうに過ぎ、冬の雪が唯一王都に積もる時期を経て、温かい春の足音が近づいてくると、つわりに悩まされる期間を抜けたらしく、身体が鈍らないように軽く剣を振り、合間にコキトに魔法を教わる事も忘れなかった。
「ひとつ、試してみたい事があるんだよね」
『流水律』の青い完全な球体を手でもてあそびながら、魔法士は色眼鏡の下の目を細めたようだった。
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