第4章:奪われた光

1/1
前へ
/238ページ
次へ

第4章:奪われた光

 と乳母が苦笑した通り、黄色や薄い緑など、男女どちらにも似合いそうな布を選んだ。  夜、アティアも下がった後の部屋で、一人黙って針を運び続ける。そうすると、色んな事が脳裏に浮かんだ。  生まれてくる子は、男と女、どちらだろうか。どんな容姿をしているだろうか。父と母、どちらに似ているだろうか。  そしてその子が成長したら、きっと疑問に思って訊いてくるだろう。  父親の存在を。  その時、勇者と魔王に分かたれてしまった両親の事を、どのように説明すれば良いのだろう。お前の父親は世界の敵だと、どうして告げる事が出来るだろう。  目の奥が熱くなり、じんわりと視界が歪んでくる。その拍子に、ちくりと左の人差し指の先に痛みが走った。慌てて口に含めば、鉄錆の味がじんわりと口内に広がってゆく。そんなに深く刺したつもりは無かったが、なかなか血が止まらない。  この先、これ以上の血を流す事になるだろう。鋭い刃でアルダを追い詰め、その心臓に剣を突き立てる夢は、これまでに何度も見た。そしていつかは、それを現実のものとしなくてはならない。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加