第4章:奪われた光

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第4章:奪われた光

『氷結律』は、城の氷室に氷を生み出し、腐りやすい食材をもたせたり、温いままでは不味い飲み物を冷やしたりする為に使われる。規模を大きくすれば、河川を凍らせ、大軍を向こう岸まで渡す事も可能だろう。シュレンダイン大陸にはアナスタシアしか国が無いので仮想敵国との戦しか想像出来ないが、万一、魔王が一軍を成して唯一王国に攻め込んできた際には、一対一ではなく、軍対軍の戦術を編み出しておく必要がある。  そんな想定を抱きながらシズナは魔法を発動させようとしたが、不意に下腹を襲った鋭い痛みに、顔をしかめて、『氷結律』を床に取り落してしまった。魔律晶はそう簡単に壊れる事は無いが、コキトが色眼鏡の下で吃驚(びっくり)して、慌てて『氷結律』を拾い上げる。  しかしシズナには、大事な研究材料を危うく破壊するところだった危機を詫びる余裕は無かった。痛みはじわじわと全身に広がり、最早立っていられなくなって、その場にうずくまる。 「あんた、まさか」  脂汗をかいて歯を食いしばるシズナを見て、コキトも察したようだ。研究室の扉を開けて廊下に飛び出し、 「誰か産婆を呼んでくれ! 人手も出来るだけ集めるんだ!」  と、珍しくうわずった声で怒鳴るのであった。
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