第4章:奪われた光

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第4章:奪われた光

 赤子はすうすうと穏やかな寝息を立て、瞳の色をうかがう事は出来ない。だが、その頭にもしゃもしゃと生えた髪色は、まごうかたなく、紫。シズナが愛し愛されたアルダと、寸分違わない色をしていた。  ぶわり、と。涙が溢れ出す。手の届かない遠くへ行ってしまったあの人との愛の証が、今こうして隣で眠っている。自分とアルダを繋いでくれている。涙を流れるに任せて、娘の寝顔を見つめていると。 「勇者様、大変お疲れでしょう。こちらをお飲みください」  助産婦が、琥珀色の液体が注がれたグラスを持ってきた。途端、アティアがさっと青ざめて何かを言わんと口を開きかけたが、 「ヘステ妃殿下からのお気遣いです」  助産婦は淡々とそう告げてアティアを押しのけ、シズナの口にグラスを押しつける。甘ったるい液体が喉を通り、胃腑へ滑り落ちていった。  嫌だ。何か嫌な予感がする。シズナの抵抗は言葉にもならず、液体は最後まで問答無用で注ぎ込まれる。その直後、抗いがたい眠気がシズナを襲った。これは産みの疲れではない。強制的にもたらされたものだ。  突然、赤子が火のついたように泣き出した。アティアが助産婦に何かを訴えているのも聴こえる。
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