第4章:奪われた光

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第4章:奪われた光

 ねばついた声が耳に届いた。はっとそちらを振り向けば、ヘステ妃が「おお、黴臭い部屋だこと」などと嫌味を洩らし、護衛の兵と共に部屋に入ってきて、シズナを見下ろすと、悪鬼のごとく唇を歪めた。 「勇者殿が子連れ、しかも魔王アルゼストの子供なぞを抱えていては、今後の支障になるからの。そなたの子は、しかるべき人物へと預けた」  シズナがその言葉の意味を咀嚼できずにぽかんとするのを、愉快そうに見て、ヘステは更に気を良くしたように言葉を重ねる。 「立派な勇者の跡継ぎになるじゃろうて」  ようやく思考が理解に追いついて、シズナは驚愕に目を見開いた。  奪われた、のだ。自分とアルダの絆の証は、この王妃の手の者によって、シズナの声が届かない場所へと追いやられてしまったのだ。  手が、ぶるぶると震える。そのわななきは全身へと広がってゆく。 「……て」  はじめは、声がしゃがれて出なかった。だが、湧き上がる怒りは、やがて音を成してゆく。 「返して! 私とアルダの子を!!」
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